『東京IT図鑑 No.2 山田育矢さん』 

2014年5月1日

  • 山田 育矢さん
  • Ikuya Yamada
  • Studio Ousia Inc. Co-founder, CTO
  • 2014.5.1
  • No. 002
  • interview: Koki Okamoto
  • photo: Yoshiaki Oshiro
  • writer: Saori Yamamori
東京IT図鑑 No.2 山田育矢さん ■人工知能による機械学習を使用したエンジン 一般的にあるサイトを見ていた時、その記事内で単語の意味が分からない場合、単語をコピー&ペーストして検索すると思いますが、そんなことをしなくても自分が欲しい情報へ簡単にアクセスできる仕組み(エンジン)が『Phroni(フローニ)』です。 Phroniは、人工知能を使ってユーザーが「興味を持ちそうなキーワード」を自動で予測し、キーワードをワンタップで関連するコンテンツにリンク化させます。現在見ているサイト内でのキーワードのリンク化は今までもありましたが、他サイトとのリンク化はありませんでした。 ちなみに、テキストの認識は、単語辞書のようなものがあって、その単語辞書にマッチさせる仕組みになっています。Phroniは、あるキーワードに対していくつかのキーワードが関連する候補となり出てくるのですが、どのキーワードがそのユーザーにとって有用かどうかは、機械学習で覚えさせています。 ■「ないと不便」というスタンダードな機能に Phroniという仕組みを製品にして実際に開発者の方に使ってもらえるようにしたものが、Linkify(リンキファイ)です。 Linkifyは、キーワードを自動的にリンク化する機能を簡単に組み込むことの出来る開発者向けAPIです。Linkifyは、まだ実際にアプリには導入されている状態ではなく、2014年3月現在、デベロッパー向けに公開しています。 Linkifyはユーザーの多いアプリ内で実装されることが重要だと思っており、1年以内にそれを実現して認知度を高めたいと思っています。 そして、スマートフォンでテキストを読んでいるときに、「このサービスよく見るよね、これがないと不便だよね」、「Linkifyがあればすぐに欲しい情報にたどりつけるよね」というスタンダードにしたいです。 参考URL:http://www.ousia.jp/ja/products   ■情報のつながりが新たなビジネスの機会に 弊社では、上記のほかにLinkplaza(リンクプラザ)というサイト内のキーワードを自動的にリンク化し、関連するショッピングサイトへのリンクをポップアップ表示させるという新しいアフィリエイトサービスも開発しています。 サイト運営者は専用のJavaScriptをページに設置すれば無料で使用できます。アフィリエイトに関連するキーワードを独自の言語処理エンジンが判断し、アフィリエイトリンクを自動で表示します。Linkplazaとショッピングサイトが連携することで、ショッピングサイトへのユーザーの誘導を図りサイト運営者の収益機会の拡大を図ります。 Phroniの場合はユーザーが検索したくなるような面白いキーワード、専門用語、人名を中心に抽出しますが、Linkplazaはユーザーが購買したくなるキーワードが中心のエンジンです。人工知能への学習のさせ方が全く異なりますが、仕組みや考え方は似ています。 現状、LinkPlazaはまだ限定公開で登録をしないと使えない状態ですが、辞書の精度を上げる必要があるのでこの作業をしっかりこなしてからのリリースにしたいと思っています。 ■「テキスト」に秘められた可能性 本来、拡張されるという性質を持たないテキスト自体を拡張させることに面白みがあると思っています。テキストを拡張するためには、文章内にあるどのキーワードをリンク化させるかということと、リンク化したキーワードをどの情報に結びつけるのが適切かということの、2つの要素があると考えています。 その上で、エンティティサーチ、つまり歌手の名前を検索したらCDの情報、地名を検索したら地図の情報など、何らかのキーワードに対してこの情報を出しておけば検索者にとって「正解」というエンジンを今後作りたいと思っています。 また、リンク化したキーワードに紐づけた情報が広告になればマネタイズもできると思っています。このサービスは、新しいGoogleアドワーズみたいなビジネスモデルになると思います。求めている情報は、検索者の背景によって異なるので、パーソナライズ化もやってみたいですね。 ■より良い世の中にするための、生活に則した仕組みづくり 今の世の中、検索エンジンに依存しているということが課題だと感じています。 情報が欲しいときは検索エンジンを使うために、モノを見たときに頭のなかで一度クエリに変換していますよね。例えば、カメラを見て欲しいと思い、調べようとした際には「ニコン、カメラ・・・」とクエリに変換をして検索エンジンで情報を得ようとします。しかし、検索するために品番が分からないから欲しいものが買えないという現象が起きる可能性があります。そのイライラを発生させないために、モノ自体に情報を紐づけるのが良いと考えるのが自然ではないでしょうか。最適解がすぐ出るとシンプルになっていく。細かい情報が分からないと欲しい情報にたどり着かない、というジレンマを世の中から解決したいと思っています。 生活している中で、モノに対してどういう情報が適切なのかという考え方で整理していくと、世の中がもっとすっきりと便利になると思いますね。 ■ゲーム作りからスタート、そして起業へ 元々、趣味はプログラミング。それが仕事になったので仕事をしている時が楽しい。 具体的にいうと、考えたことが形になっていくのは大きいことでも、小さいことでも楽しい。小さいことの方が日々形になっていくので、より楽しさがありますね。 中学校の時にプログラミングをはじめて始めたのですが、そのきっかけは環境が大きかったですね。慶應SFCの中高に通っていたのですが、中学校のときから周りにたくさんコンピュータがあってカッコいいなと思っていました。当時、ゲームがすごく好きで、ずっとやっていたら、先生に怒られました。怒られた時、こんなこと聞くのもどうかと思うけど、「どうしたら怒られずにゲームができるか」と先生に聞いたら、「自分で作ってみたらどうか」と言われたんです。それから、テトリスとかオセロとかを作りまくっていましたね。作っているのか、やっているのか分からない状態。中学2年頃の話です。 当時はインターネットの黎明期で、パソコン通信を利用して自分で作ったソフトを公開していました。そういうところに公開することが趣味で、楽しかったんです。その後、大学入学と同時に会社を設立して卒業と同時に売却したのですが、その会社がIPOすることになって、経営者として技術に携わっていくというよりも、技術者として作るものを自分で決めたいということに気付きました。 ■「おかしい」という想いがサービスをつくる 所属している研究室の先生に「実際に動くものを重視した方が良い」と言われてきました。 この言葉は、自分の行動の指針になっています。理論だけでなく、実務としての落とし込みまで行うことが大事ですね。社会で使われるシステムを作るということを重視したいと思っています。 あとは、「シンプルにする」「バリューを明確にする」ということを意識しています。何の役に立つかという話になると、テクノロジーサイドは技術の特徴を説明しがち。もちろん、それは大事なことですが、もっと具体的にユーザーにどう役立つのか、バリューなりコンセプトなりを明確にしたい。実際の価値まで落とし込むことを重視する、というのも教わったことですね。 サービスは、本を読んでいて「おかしい」と思ったことから考え始めることが多いですね。 昔から人工知能に興味があり、自然言語処理の本を読んでいたら、「名詞、固有名詞・・・と分類していく」と書いてあって。でも、生活していて人間にとって名詞と固有名詞って全然意味が違いますよね。人間の生活に則したキーワード抽出ができていないのだな、とそのとき気が付きました。つまり、人間にとって重要なキーワードを抽出するという概念はあまりなかったように思います。現状の抽出だと物凄い量の情報が出てきますが、マニアックな単語は上の方には出てこない。人間がピンと来るものが上位に上がってこず、何となく違和感があったことが今のサービスを考えるきっかけになりました。 ■経営者か、エンジニアか そのようなきっかけで会社を作り経営者となりましたが、エンジニアとしてどこまで自分が入り込むのが良いのか分かりませんでした。 人によって異なると思いますが、自分はがっつりエンジニアとしてプロジェクトに入ってやらないといけないタイプだと、ある時わかりました。 最初はプロジェクトと距離を置きながらやっていましたが、細かいことが気になるタイプなので、自分も携わってやる方が最後は自分に向いていると思い方向転換しました。 実際のコードはエンドの製品に結びつかないんですよ。でも、ベースの部分が大事だと思っています。ベースの部分をきちんと構築しないと、その上に積み重ねていけない。ベースが分かってないと、どこに積み上げて良いか分からない。そういうベース作りを、しっかり細かくやっていきたいです。 ■哲学書から得た、生き方・人間の在り方 よく哲学書を読んでいました。 哲学書を読むようになったきっかけは、根拠が欲しかったからですね。会社の創業や売却、IPOといった転換期だったので、抽象的なものが読みたかったのかもしれません。具体的には、フランスの社会人類学者、民族学者である、レヴィ=ストロースという思想家の思想がやわらかくて好きです。スイスの精神科医・心理学者であり、深層心理について研究し、分析心理学の理論を創始した、カール・グスタフ・ユングの本もよく読んでいました。 人間って枠組みで話すんですよ。倫理とは違う、超えてはいけない枠組みがある。普通こういう風に考えるよね、という思考のプロセスとしての枠組みですね。でも、その枠組みは共通じゃない、じゃあどこまで共通なんだろうということを考えていました。哲学書は、新しいことを得られるものではないと思いますが、生き方・人間の在り方みたいなところを学べると思います。 ■生活に密着したイノベーション 最近一番興味があるのはgoogleグラス。 googleグラスは見ているもの自体がテキストに拡張することができます。実空間が具現化されるってすごいことだと思います。仕事でコードを書きまくっていて忙しく(笑)、まだ入手していないのですが欲しいです。生活はきっかけの連続。お腹がすいてご飯を食べる、というような連続性があるもの。だからこそ、その連続性に沿ってリアルタイムに見ている空間が拡張できるという部分に、とても可能性を感じます。 ■次回のインタビュー コグニティ株式会社 代表取締役 河野 理愛さん Discuss-Here Officeという会議効率化アプリの制作と、新しい雇用形態の創造に尽力。 【あとがき】 山田さんは、感覚をすごく大事にしている人だと感じました。 人間味がたっぷりで、気持ちに素直に生きている印象を受け、「IT起業家」のロジカルに詰めて考えていく堅いイメージが払拭されました。今後も山田さん自身が「おかしい」と思った直感で、世の中を便利に変えてくれるのではないでしょうか。 株式会社Studio Ousia 山田 育矢さん 中学の頃からエンジニアとして活動。高校時に国際コンテストThinkQuestにて、銀賞を受賞。大学入学時に、株式会社ニューロンを起業し、P2P通 信の基盤技術を開発。同社を株式会社フラクタリストに売却し、取締役に就任。同社上場を前に退社し、株式会社Studio Ousiaを設立。