『東京IT図鑑 No.4 青木俊介さん』

2014年7月30日

  • 青木 俊介さん
  • Shunsuke Aoki
  • YUKAI Engineering Inc. CEO
  • 2014.7.30
  • No. 004
  • interview: Koki Okamoto
  • photo: Yoshiaki Oshiro
  • writer: Saori Yamamori
■原点は「ターミネーター2」のダイソンさん 中学2年生のときに「ターミネーター2」を観たことがきっかけで、ロボットに興味を持ちました。 アーノルド・シュワルツェネッガーが主役で出演している有名な映画ですね。作品の中で、シュワルツェネッガー扮するアンドロイドの頭の中身を設計した「ダイソンさん」に憧れました。人工の知能を開発することができるのかと純粋に驚きました。 その後、高校生時代も人工知能に関する書籍を読みあさっていましたし、大学も人工知能について勉強できるところと進路を決めて入学しました。 大学で「最先端の人工知能の研究をやるぞ!」と思っていたのですが、同じ工学部のクラスにいた友人が「会社やったら、絶対面白いって!」と言われ、僕も「面白いかも」と思い、インターネット関連のシステム開発を行うベンチャー企業を立ち上げ、人工知能の研究は取りあえずその時点で諦めました。このときに仲間と作った会社が後の「チームラボ」です。 僕はチームラボで6年間技術責任者(CTO)をやっていました。具体的業務としては、オリジナルの検索エンジンを作ったりしていました。 ただ、やはり自分で「身体的で人間と共生できるようなロボットを作りたい」という、憧れが強くありました。しかし、ロボットというハードウエアをビジネスとしてやっていくには、まだまだ世間的な関心はないし、厳しい状況でした。 ■ブラウザの世界から、多様な現実世界で動くロボットづくりへ そんな中、1999年にAIBOが、現行のASIMOが2000年に発表され、この頃からロボットに注目が集まりつつあるなと感じ始めました。 その後、2002年に開催された二足歩行ロボットによる格闘競技を中心としたロボット競技大会「ROBO-ONE」がひとつの転機となり、ロボットに挑戦し始めました。当時、このイベントが盛り上がりだしてきて、テレビなどでも取り上げられるようになり、ロボットブームが起こりました。 その2〜3年後に「ROBO-ONE」の盛り上がりを受けて、国内のロボットベンチャーが注目され始め、その盛り上がりを見て「もしかしたらロボットでメシを食えるかもしれないぞ」と思いました。 僕が当時やっていたインターネットの開発は、真っ黒な画面に向かってずっとコマンドを打っているという仕事でした。ずーっと、1日中黒い画面を見ているんですよ。でも、現実世界はもっと多様で。インターネットの世界はブラウザの中からは出られないので、外に出たいという欲求がありました。ブラウザの世界から抜け出して、ロボットが動いた方がもっとワクワクするのではないかと思ったんです。 ■生活を豊かにするロボットづくり 実際にロボットを作り始めたときは、市販のロボットを買ってきていじっていました。近藤科学という会社のKHRというシリーズを買うことからはじめ、本を読んだり、インターネットで情報を収集したり、独学で開発に取り組みました。 最初に作ったのは「カッパノイド」というロボットです。「人と暮らせるロボットが作りたい」という思いで作りました。 2足歩行のロボットがガチャガチャ歩くというのではなくて、リビングなりベッドルームなりに、自分の部屋にいつも置いておくことができるロボットが作りたかったんです。チームラボに優秀なアルバイト学生がいたので、彼に「ロボットは面白いよ!」って言ったり、ロボットの開発に関する本を貸したりして、吹き込んでいました。日々の努力が実ったのか、彼も「ロボットやりましょう!」って言ってくれて。二人でワーッと盛り上がって作りました。 家にいる際の状況を考えてみると、インターネット社会が進むに連れて、どんどん文字の情報が押し寄せてきますよね。PCやスマートフォンも普及し、タブレットやスマートテレビ・・・家の中がスクリーンだらけになっていく。しかし、それは人にとって幸せなこととは思えませんでした。 もし、そうした情報処理をロボットがこなせるようになれば、もっと生活が暖かく豊かになるんじゃないかなと思っています。 例えば、アラームで起こしてくれるだけの目覚まし時計。もし、可愛らしいペットのようなロボットがベッドにもぐりこんできて起こしてくれたら面白いと思いませんか!?毎朝「起きる」という同じ行為でも、全く異なるイメージを与えることができます。ロボットを媒介にして、暖かい暮らしを提供できれば良いなと思っています。文章やメールのやり取りは何かしらの「メッセージ」のやり取りです。でも、ただボールをぶつけ合うコミュニーケーションもあります。子供はそういうことのほうが多いですし、スキンシップができる「コミュニケーションロボット」を作っていきたいと考えています。 ■子供やお年寄りにも使ってもらえるものを。 スマートフォンやパソコンは、個人のためのツールですよね。でも、コミュニケーションロボットは、1対「多」で使うことができるんです。また、スマートフォンを普段使っていない子供やお年寄りも利用することが容易にできます。今はインターネットに馴染みのない彼らが、ロボットを介してインターネットを使うことができるようになると良いと思っています。 例えば、親が家にいる子供に連絡したいとき、電話するしか手段が今はないですよね。iPadのようなタブレットにLINEをインストールして渡す親はほぼいません。渡したら、それはそれで心配ですし・・・。そういう部分をインターネットで繋げられるのではないでしょうか。 例えば、「toymail」というkickstarterにあるプロジェクトのような仕組みです。親が外出先からボイスメッセージを専用の仕組みを使って送ると、家にいる子供に持たせたおもちゃが鳴ります。そしてメッセージを確認し、返信することができる。声を聞くことができると、お互い安心できますよね。そうして簡単に操作ができ、コミュニーケーションが図れます。 ■「枯れた技術の水平思考」に学ぶ 任天堂の横井軍平の言葉で、「枯れた技術の水平思考」という言葉があります。 任天堂のハードというのは、新しいものを作らないんです。うまく別の市場に出回っている機器を使って、新しいものを作っていくということをやってきた会社なんです。昔に流行ったゲームウォッチは電卓から発想されていて、ほぼ中身は電卓と一緒なんです。他にも、Wiiコントローラは加速度センサーを使っていますが、もともとは自動車のエアバッグで使われはじめたものです。大量に出回ることによって安価で使用することができるので、おもちゃに転用できないかという発想で作られています。そういうアプローチを僕たちの会社としては、取るべきかなと思っています。 ■再度「エンジン」が作れる国へ 現在の日本のスマートフォン輸入総額は、鉄鉱石と同じくらい海外から買っています。我々が小学生の時、「日本は海外から材料を買って、完成品を売って儲けている」と習ったのに、それが今や材料と同じくらい完成品を海外から買っているというのは大変残念です。 これから、日本企業全体としては、チップやプラットフォームという分野をとりにいかなければいけないと思います。 チップは日本製のものもありますが、ほとんどはアメリカ製です、残念ですが。。ガラケーの全盛期でも重要なパーツはアメリカが作っていました。 日本の高度経済産業を支えた自動車産業は複合産業でした。鉄鋼、エンジン、繊維・・・などを凝縮させて生まれたものでです。しかし、日本は「エンジン」が作れない国になってきています。今後は「エンジン」を作らないとダメだと思います。 日本は、アナログとデジタルの境目の部分が強く、物質、素材から作らなくてはならない分野は強い。チップを作っているのはアメリカですが、原材料であるシリコンを作っているのは日本だったりするんですよ。素材には強いのだが・・組み立てて何かを作るところが弱いんでしょうね。 我々の会社も現在は、ロボットという製品に落とし込むところに価値を置いていますが、原材料となるチップを作るところまでいきたいと思っています。チップというよりはOSやソフトウエアに近いものかもしれないです。原材料から製品まで一気通貫で、人とものをつなげるハードを作っていきたいです。そこまでできると強いと思います。 しかし、Appleでさえ自社でチップを作るようになったのは最近のこと。さらには、コアの部分は自社で作っていません。 原材料から製品まで全部トータルで作るには、規模が必要なものだと思うので、まずは規模を大きくしないといけないと思っています。 ■ ITは建設業ではない 日本ではITというのが建設業に近いこととして捉えられています。箱を用意するという発想においてですが。「ビルを建てるようなものだから、建設会社にお願いすれば良い」という感じです。しかし、ITは恐らくもっと経営の根幹に近い部分であり、人間でいうと血管とか神経と同じくらい中枢を担うもののはずです。ITで一番大事なのは、常に改善をし続けるというところなんです。 一般に公開されているものでも、社会に出ているものでも、常に手を入れ続けないと機能しなくなってしまう。よって、社内に技術者やITシステムの構想を作れる人を置いていることが重要になってくると思います。海外の会社のことはあまり分からないですが、アメリカの企業では独自に社内システムを開発しているというケースが多いと感じています。 日本の中小企業にはパソコンを使うことが精一杯の会社も存在します。製造業や地方にあるような中小企業は未だにFAXでやりとりしているような印象があります。日本の経営者に、ITはもっと大事なんだということを落としこんでいくことができれば、世の中のITへの捉え方が変化してくるのではないでしょうか。 ■リスクなくして、イノベーションなし 大手企業で、youtubeやFacebook、Twitterなどに社内のネットワークからアクセスできないよう制限されていることが不思議です。 例えば、スマートフォンを作っている会社なのにTwitterにアクセスできない会社もあると聞いています。世界のプラットフォームになりつつあるサービスに、乗り遅れていることが問題です。利用を制限することによって、世界のニーズから自分たちを遠ざけることになっているという認識がないんですよね。そういう意味で「コンプライアンス」という言葉は嫌いです。ベースになる部分を遮断して果たして良いものが作れるのだろうか、と思います。 インターネットというのは良いものも危ないものもある場所だと思っています。 しかし、なにか新しいものができるときには当たり前のことで、新しい分野に積極的に飛び込まない状態は好ましくありません。 「安心・安全」というのは、イノベーションとは完全に対にある言葉であり、リスクをなくすことが必ずしも良いこととは限らないのではないでしょうか。リスクなくして、イノベーションはありません。 ■動き始めたロボット業界 現在ハードウエアのスタートアップ分野は、まだインターネットでいうところの90年代頃にあたると思います。 90年代はシステムでいえば、オープンソースのものを業務で使うことはあり得ない時代です。誰がサポートしている、どの会社が責任取るのか分からないものを社内で使うことはあり得ないとされていました。 現在は、ハードウエア設計情報が徐々にオープンソースになってきています。3Dデータだけでなく、電子回路などがネット経由で手に入りやすくなっています。電子回路などのパーツがインターネット経由で手に入りやすくなっているのは有り難いことです。例えば、「このパーツを入れれば、人感センサーになる」などといったようなパーツが安く手に入るようになってきました。これは、「メーカームーブメント」といわれる現象です。 日本ではまだまだ産まれていないですが、海外、特にアメリカではすごい数のハードウエアのスタートアップができています。 現在、まだ「勝ち組」といわれているところは現れていませんが、「kickstarter」というサイトでは日々面白いものがたくさん扱われています。 僕が注目しているのは、googleに買収された「nest」という会社です。何をやっている会社かというと、ホームオートメンションプラットフォームを作っています。アメリカの住居では、セントラルヒーティングというシステムがあり、空調を1つのボイラーで管理しています。その空調を人がいなくても自動的に管理してくれるプラットフォームを作っています。例えば、人がいないときにボイラーを消したり、つけたりして、効率が良く調節してくれます。ロボットにかなり近いことをやっているんです。 ■「製造業のハリウッド」である深圳 googleがロボット関係の会社を買い始めていることもあり、ロボットの分野が注目され始めていることにワクワクしています。メディアで取り上げられている機会も増えてきています。先日、中国の深圳に行った際もワクワクしました。ただ趣味で製品作りをしているのではなく、お金を稼ぐために製品として販売できるものを作っている人が集まっているエリアだということを肌で感じました。「製造業のハリウッド」と深圳の人たちは、自分で言っています。現在では、アンドロイドもiPhoneもプレステもwiiもXboxも全部深圳で作っているんです。工場が集積していて、これからハードウエアをスタートする時に必ずなくてはならない場所だとも言われています。日本には、海外の有名な方がイベントや講演にはなかなか来ないですが、深圳のイベントには来ていました。また、アメリカの大企業が本気で参加していました。それだけ、注目されているということです。 製造の基盤があるので、世界中からアイデアを持つひとたちが集まってきます。日本も昔はそうだったんですけど、いまは変わってしまいました。 ■脳みその「ハック」をしに、ヨガへ 仕事以外で興味があることは・・・ヨガです。 知り合いが通っていて面白そうだったので行ってみたんです。何回か行きました。 あとは読書です。「フェラーリと鉄瓶」(奥山清行)というフェラーリのデザイナーが書いた本は、どや話がいっぱい載っていて面白かったです。 仕事から切り離したことをしたいという想いがあるのではないでしょうか。脳みそのハックをしたいんです!(笑) ■会社は海賊船、会社の状態はドラクエ! 会社をやっていると、脳みそをハックしたくなるようなマイナスなことばっかりなんです(笑)。 まるで、ゴールがないマラソンみたいです。色々な困難を乗り越えているかどうか分からないけど、取りあえず前に進まないといけない。 アイロボットというルンバの会社の社長さんが講演で話した記事を読んだのですが、「経営というのは、飛行機が完成する前に取りあえず飛び立って飛びながら飛行機を作るようなものだ」と言っていて。その通りだなと思いました。 飛んでいないと死んじゃうから、飛ぶしかないんです! 仕事への原動力は、「自分が一緒にいたい人といたい」という部分ではないでしょうか。一緒にいたいから会社を作ったというのが出発点です。最初はチームラボという会社を作って、ピクシルという会社を次に作りました。仲間が一緒にいてくれれば良いと思っています。 海賊船みたいな感じですかね。「麦わらの一味」みたいな(笑)。 街の中に入れないからHPは回復しない、セーブもできないドラクエみたいなもんですよ。「逃げる」のはありです(笑)。 「会社は海賊船、会社の状態はドラクエ」なんです。好きな人と一緒にいたいという思いが頑張ることができる原動力です。   ■次回のインタビュー 株式会社カンム 代表取締役 八巻 渉さん カンムは「決済×アドテク」をテーマとしたマーケティング企業。Card Linked Offer(クレジットカード決済連動型優待)と呼ばれる、実店舗への送客プラットフォームを日本で初めて開発・運営しています。   ■ あとがき 「自分が一緒にいたい人といたい」という人間らしい素直な気持ちで会社を作った話は目から鱗でした。そういう形もあるんだな、と。 これから益々注目されていく分野で、青木さんの「海賊船」がどうやって進んで行くのか楽しみです!   ユカイ工学株式会社 代表取締役社長 青木 俊介さん
2001年 東京大学在学中にチームラボ株式会社を設立、取締役CTOに就任。2002年 東京大学工学部計数工学科卒業。2007年 鷺坂と共にロボッティクスベンチャー・ユカイ工学LLC設立。2008年 ピクシブ株式会社の取締役CTO就任 登録ユーザー400万人のサービスを立ち上げ。2009年 東華大学信息科学技術学院修了(中国・上海)。2010年 株式会社化。ソーシャルロボット「ココナッチ」や、フィジカル・コンピューティング・ツールキット「konashi」などを開発・販売。